ドリーム小説

 彼女はいつも、多くを望まない。たまには、ワガママも言ってほしいのに、それもない。
 その彼女のマントが破れていることに気づいたのは、セシルだった。

 「、マントが破れているよ」
 「え?? ホント?」

 背中の方なので、気づかなかったのだろう。後ろを見ようとし、ハタと気づいてマントを脱ぐ。

 「あー・・・ホントだ。気づかなかった」
 「次の町で新調しよう」
 「大丈夫よ、繕えば」

 マントを羽織り、が言う。自分なんかにお金をかけるな、と言っているようで。
 は、基本そうなのだ。新しい武器があっても「セシルやカインのお古でいい」と言う。自分よりも、セシルたちを優先してくれ、と。

 「針仕事とか、したことあるのかい?」
 「うーん・・・まあ、基礎くらいはね。このくらいの破れ、裏から布あてがって、縫っちゃえば平気よ」
 「でも・・・」
 「あ、みすぼらしい? それだったら、考え直す」
 「いや、そんなことはないけど・・・」

 そういうわけではなく・・・少しは彼女に新しいものを買い与えたいのだ。
 無駄なことにお金を使うべきではない、という彼女の考えには賛同できる。だが、やはり・・・。

 「やっぱり、マントを買おう」
 「え? でも・・・」
 「謙虚なは好きだよ。すごくうれしい。だけど・・・おかしな話かもしれないが、君に僕からプレゼントしたいんだ」

 セシルの言葉に、は目を丸くする。恋人へのプレゼントが、マント。なんとも変わった話だが、セシルの気持ちはわかる。
 だがやはり、遠慮してしまう。このパーティで、自分はお荷物かもしれないのに、それなのに金をかけてもらうなんて。

 「ううん、いいの。やっぱり悪い」
 「え? どうして?」
 「これ以上、足を引っ張りたくないし」

 モゴモゴと歯切れ悪く言う。謙虚な上に、自己肯定力も低いらしい。
 バロンでは、赤魔道士であるは、異端視されていた。白でも黒でもない、赤。欲張りなことだ。
 そんな自分に、友人は少なく。幼なじみの3人が、の大事な友人たちだった。
 指導者である魔道士たちは、けしてに近づくことはなく。そのため、ローザが彼女に白魔法を教えた。
 しかし、黒魔法はローザの専門外だ。誰に頼ることなく、魔道書を読みふけり、なんとか自力で基本の三種を習得した。
 そんな環境下にいたは、どんどんと自分に自信をなくし、“何かをしてもらうこと”に対して臆病になっていて・・・。

 「は、もしかして“自分は足手まといだ”って思ってる?」
 「え? う、うん・・・だってそうでしょう?」
 「足手まといなら、君を支援して戦うよ。何せ“足手まとい”なんだからね。でも、今までそんなことはなかった」

 彼女は自分のできる範囲で、モンスターと戦っているし、回復だってしている。今までだって、一度たりとも足手まといだなんて、思ったことはない。

 「ねえ、。もう少し、自分を好きになってあげて?」

 セシルの優しい言葉。甘えていいのだろうか? 不安になる。もちろん、セシルはに甘えてほしいと思っている。
 立場的な問題なのだろうが、セシルのことで後ろめたい気持ちなのだ。それはわかる。

 「僕が大好きなを、も好きになって?」
 「セシル・・・」

 そっと目を伏せて。戸惑うような。どうするべきか、悩んでいるのだろう。
 だが、ここまで言われて、それを断るのも失礼だ。

 「うん、わかった。ありがとう。お言葉に甘える。
 うん。そうしてくれるとうれしい」

 ニッコリと微笑み、うれしそうなセシル。はそれがくすぐったかった。
 彼は、自分を選んでくれた。だが、それでいいのだ。彼が後悔していないのなら。
 やがて、立ち寄った町で、2人は仲間たちと別行動。リディアが「一緒に行きたい」と言っていたが、セシルに「2人きりにさせてくれ」と言われ、素直にうなずいた。
 リディアは少々子供じみたところがあるが、物分かりのいい少女だ。幻獣たちに育てられたおかげか、大変無垢である。
 のことを「おねえちゃん」と呼び、慕ってくれるリディア。子供の頃、自分をかわいがってくれたことを、忘れずにいてくれたのだ。

 「リディアはお姉ちゃん子だね」
 「そうかも。でもうれしい。妹ができたなんて」

 離れていた時期もあった。それでも今、こうして2人は再会できた。
 もちろん、セシルにとってもリディアは妹のような存在だ。自分の不注意で、彼女の母を死なせてしまったというのに、それでもセシルを恨むことなく、信頼してくれている。「恨むよりも、もっと大事なことがある」と。

 「あ、服屋だ。入ってみよう」
 「うん」

 見えてきた店。2人は中に入った。けして広いとは言えない空間に、並べられた服たち。
 がキョロキョロとあたりを見回す。赤い服はあるが、マントは見当たらない。
 店員が「何かお探しですか?」と声をかけてきたので、セシルが求めているものを伝える。やはり、赤いマントはないらしい。

 「よろしければ、お仕立ていたしましょうか? そちらのお嬢さんのですよね?」
 「え? あ・・・はい。でも・・・」
 「そうしてください。どのくらいで出来上がりますか?」

 仕立ててもらう、ということに、はまたもや遠慮してしまう。オーダーメイドなど、高いに決まっている。
 だが、セシルは気にすることなく。出来上がりは明日の昼頃だという返事に、うなずいた。
 明日の昼、取りに来ることを約束し、2人は店を出た。

 「セシル・・・よかったの?」
 「うん? 何がだい?」
 「仕立ててもらうなんて・・・。私は、これでいいのよ?」
 「何度も言わせないでくれ。僕がそうしたいんだ」

 優しくそう言うセシルに、は目を伏せ・・・「うん」とうなずいた。
 新しいものが嫌いなわけではない。だって、女の子だ。普通に綺麗なものを着て、少しでも良く見られたい。

 「ありがとう・・・」
 「どういたしまして。少し、歩こうか。せっかくの2人きりだし」

 セシルが手を差し伸べてきた。視線を泳がせる。だが、彼女だってセシルと同じ気持ちだ。好きな人と、一緒にいたい。その手を取り、並んで歩き出す。

 「
 「うん? なぁに?」
 「ありがとう」

 セシルのお礼に、が首をかしげる。「なんのお礼?」と尋ねた。

 「いつも傍にいてくれて、ありがとう」

 足手まといではないのだろ、君が大事で必要なのだと、セシルは繋いだ手に力を込め、愛しい彼女に伝えた。